2022年10月に社会保険の加入要件が変わり、加入者が増加しました。
加入者増に伴い、会社の負担も増しているでしょう。
社会保険料の負担を少しでも減らしたいと考える経営者も多いと思います。
適正な社会保険料を支払うことで、結果的に毎月の負担が抑えられる場合があるのです。
今回は、適正な社会保険料額を算定するための方法を説明していきます。
社会保険料制度とは
社会保険は大きく3種類に分かれ(下表)、給与と賞与にかかり、労使折半で負担します。
1.社員にかかる社会保険料を適正化(=節約)する方法
社会保険料の徴収方法は、法律により定められています。したがって、以下のように工夫次第で社会保険料を抑えることができます。
社員の入退社時期を調整する
社会保険料の徴収期間は、「被保険者の資格を取得した月」から「資格を喪失した月の前月まで」と法律で規定されているため、入退社日を見直します。
(例)令和4年11月26日入社 → 令和4年12月1日入社
令和4年11月30日退社 → 令和4年11月29日退社
これで、2か月分の保険料が節約されます。
【注意】社会保険に加入していない月(保険料を徴収しない月)については、自身で国民健康保険などに加入し、保険料を負担する必要がありますので、社員の入退社時期については、双方の納得いく形で決定をしましょう。
給与改定を7月にする
前述のとおり、社会保険料は4月から6月の給与の平均を基に計算されるため、この時期に昇給するよりも、7月に昇給させることで12か月間の社会保険料の上昇を遅らせることが可能となります。
ただし、
①昇給した場合、4月から6月分までの昇給分をもらえなくなる
②将来的に受給できる年金の額が減る可能性がある
ことを従業員に説明し同意を得ることが必要です。
賞与の支給方法を見直す
社長や院長・役員・管理職等の高額な賞与をもらう可能性のある方が対象となりますが、賞与の支払い方法を見直すことで社会保険料の削減につながる方法があります。この場合は健康保険540万円、厚生年金1回150万円という上限額を利用します。
① 賞与の支給は年1回とする
支給を1回にして厚生年金の上限額を利用して、社会保険料を削減します。
② 賞与を12等分して給与に割り振る
厚生年金保険の等級の上限額(月額60万5千円)を利用します。
月給が上限額に達している場合、これ以上保険料が上がることはないので、年間の賞与を月給に割り振ることで社会保険料を削減します。
賞与の一部を退職金へ回して節約する
賞与と退職金の大きな違いは所得税と社会保険料に関する取扱いです。
賞与に社会保険料はかかりますが、一定額までは退職金にはかかりません。
それを利用して、賞与を減額・廃止して支払う予定の金額を退職金の原資として積み立てます。
積み立てる方法は2つ、社内に積み立てる方法と、社外積立として中小企業退職金共済機構等に預ける方法があります。
高年齢者を活用する
現在の60歳以上の高齢者は、活力がありまだまだ現役で活躍できる方が大勢います。
そこで求人の一部を高齢者に切替え嘱託社員として雇用することで、現役世代より給与・社会保険料を抑え、なおかつ企業の求める能力を持った即戦力を得ることが期待できます。
定年後の賃金を工夫して節約する
現在法律では、社員を65歳まで雇用することが義務化されています。
多くが60歳を定年として、その後、労働契約を結びなおし再雇用する方法です。
60歳以降の社員の所得は、①会社からもらう賃金 ②高年齢者雇用継続給付(雇用保険から支給) ③老齢厚生年金 の3つがあります。
②と③は社会保険料がかからないため、国の制度をうまく活用し賃金を設定すれば、会社の社会保険料負担を減らし、社員の手取りを増やすことができます。
被保険者に該当しない人の活用
健康保険及び厚生年金保険の適用事業所に勤務している社員であっても、下記5つの要件に該当する場合、被保険者にはなりません。
健康保険および厚生年金保険の被保険者になれない社員は下記のとおりです。
また⑥の派遣社員については、派遣元で社会保険に加入するため社会保険料はかかりません。
<被保険者に該当しない人> ① 日々雇入れられる人 ② 2か月以内の期間を定めて雇用される人 ③ 季節的業務(4か月以内)に雇用される人 ④ 臨時的事業の事業所(6か月以内)に雇用される人 ⑤ 労働時間が正社員の4分の3未満の人 ⑥ 派遣社員 |
4月から6月の3か月の残業代を見直す
社会保険料は4月から6月の給料の平均を基に、その年の9月から決定される決まりとなっています。
社会保険料の適正化を考える時に、4月から6月の残業代を抑えることが有効です。
【注意】4月から6月の対象月は、「勤務した月」を元に算定するのではなく、「給与などの支払月」を元に算定します。
報酬月額の緩和要件
また、報酬月額の緩和要件に該当する場合は活用することで社会保険料を抑えることもできます。
<報酬月額の緩和要件>
① 前年の7月から当年6月までの12か月平均
② 当年4月から6月までの月給の平均
①②に2等級以上の差がある場合、いずれか少ない方で社会保険料を計算することができます。
これは、企業全体ではなく部署単位で適用することができます。
ただし、社員の同意書が必要になります。
2.制度を見直すことで社会保険料を適正化(=節約)する方法
賃金制度を構築・見直す
給与の決め方は会社によってさまざまですが、近年は中小企業でも事業主の自己裁量ではなく、評価制度や賃金制度を明確に定め、社員にきちんと説明して運用している会社も増えています。
賃金制度の導入により、社員のモチベーションアップや優秀な人材の定着、会社の業績アップにつながります。
ただし、制度構築には時間がかかり用意ではありません。
会社の核となる賃金制度の構築を考えるなら、専門家に依頼するのも1つの方法です。
請負契約を活用する
請負契約とはアウトソーシングや外注のことで「一定の成果に対して報酬を支払う契約」を言います。
請負契約を締結するメリットは2つあります。
<請負契約のメリット> ① 雇用契約と違い、労働諸法令の適用を受けない ② 労働保険、社会保険等の保険料負担がない |
ただし、請負契約をした業務については、指揮命令権はありません。
また、外注に出すことにより社内で人材が育ちにくいというデメリットもあります。
非常勤役員を活用する
非常勤役員に社会保険加入義務はありません。
常勤・非常勤の判断は次の3点です。
<常勤役員と非常勤役員のちがい> ① 役員として代表権を持っているかどうか ② 役員会に出席しているかどうか ③ 報酬はどの程度か |
休職制度の内容を見直す
休職制度とは、会社の籍を置いたまま、一定期間働く義務を免除する恩恵的な制度ですが、あらかじめ決めておくべきルールがあります。
<休職制度においてあらかじめ決めておくべきルール> ① 対象となる労働者、休職理由と休職期間を明確にする ② 休職期間中の賃金は有給にするか無給にするかを決める ③ 退職金の計算の基礎となる勤続年数に入れるかどうかを決める |
休職期間中も社会保険料は発生するため、本人から社会保険料を徴収する必要があります。
毎月振り込みをしてもらうなど、徴収するルールを明確にしておかないと、立て替えた分だけ負担増となってしまいます。
また、復職後、再度同じ病気での求職は期間を通算させる、休職期間中に復職できなければ退職とする(解雇ではない)一文を追加することも有効です。
産前産後・育児休業中の社会保険料免除を活用する
産前産後休業期間から育児休業期間中まで、申出をすることによって労使双方保険料が免除されることになっています。
3.社会保険料を適正化するための留意点
不利益変更には同意が必要です
不利益変更の場合は、同意を必ず得ること
社会保険料適正化のためルールを変更するには、就業規則を見直すだけではなく、対象者の同意が必要です。
ルール変更が有利な条件なら問題ありませんが、不利益変更を行う場合には、必ず社員の同意が必要になります。
社員にメリット、デメリットを説明し、本人に納得してもらうこと
ルールの変更により、会社側と本人の目先の社会保険料負担は減りますが、将来の年金受給額が減額する可能性があることを社員に説明することが重要です。
手続きのアウトソーシングでリスク回避
社会保険制度では、次のような手続きが発生します。
① 社員の入退社等に関する手続き(雇用保険、健康保険、厚生年金保険)
② 社会保険料に関する手続き(年度更新、算定基礎届、月額変更届等)
③ 社員が病気やケガで入院、社員が出産した場合の手続き
従業員数が多いほど手続きの件数も増加し、内容も多岐にわたるため人事労務担当者が1人で対応に苦慮しているケースも少なくありません。
こんな時、専門家である社会保険労務士に業務委託することで、煩わしい手続き業務に不備がなくなり、会社も人や経費を生産性のある部門に配置、投資することができます。
最後に
社会保険料を適正化し企業側の負担を減らすためには、従業員に内容を説明し、納得してもらい同意を得ることが必要です。
労働契約法第9条にて、原則として労使間の合意のない就業規則の不利益変更を禁じています。
社会保険料の負担が減ることで、従業員の将来受け取る年金が少なくなる可能性があることなどを理解し同意をもらうことが重要です。
<参考>報酬となるもの、ならないもの
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