今回は、よくあるお問い合わせの中で、労使間でのトラブル事例をまとめてみました。

Q:社員が職歴や学歴を偽って入社した場合は、解雇できますか?

A:会社が採用選考の途中で、必要かつ合理的な範囲で職歴・学歴についての申告を求めた場合は、社員は真実を告知する義務を負うことになります。

したがって、採用評価に誤解を与えるような重要な経歴詐称は、解雇の対象になります。

解雇が出来る前提としては、あらかじめ職歴や学歴詐称が解雇の対象になることを「就業規則等」で定めておくこと、経歴詐称について書面による証拠(履歴書や面接票)があることなどが必要になります。

裁判例:

東京地判H29.11.1

営業の即戦力となる人材を求めていた会社に、架空の前職や実際より長い在籍期間を申告して入社した者の解雇を有効としました。

東京地判H16.12.17

プログラマー募集の際に、プログラミング能力があるように職務経歴書や面接で申告した者の懲戒解雇を有効としました。

 

Q:従業員が多重債務を抱えている場合は、懲戒処分はできますか?

A:社員が「多重債務を抱えていることや返済が滞っていること」は、業務とは直接関係のないことですので、それ自体を理由として懲戒処分や解雇を行うことは、基本的には出来ません。

ただし、担当部署や担当業務によって(例えば経理、金銭を扱う業務など)は、業務をスムーズに行う上で支障をきたすことがあるため、その必要性に応じて人事異動や配置換えを行うことは可能です。

 

Q:服装・身だしなみ(タトゥー、ひげ、ピアス、ネイルなど)について制限することはできますか?

A:髪型やひげ、服装などは、基本的には「個人の自由」に属する問題です。

ただし、業種や担当業務の内容など(例えば飲食店や接客業など)に照らして、合理的な範囲であれば会社が制限することも出来ます。

いずれにしても、入社時点での十分な説明や確認が特に大切です。

裁判例:

福岡地小倉支決H9.12.25

トラック運転手の茶髪について、「染め直せ」「始末書を出せ」などと指導した後、懲戒解雇としましたが、必要性・相当性を欠くとして無効とされました。

大阪髙判H22.10.27

 男性従業員の長髪、ひげを「全面的禁止とする社内規定」は合理性がないとされ、その規定に業務を限定したことや人事評価をマイナスにしたことは違法であるとされました。

 

Q:勤務態度が悪い場合は、解雇することができますか?

A:就業規則に「たび重なる注意・指導にもかかわらず改善の見込みがないとき」解雇となるという記載があることを前提として、時期、その様子、原因、結果などを考慮の上、重大で悪質と認められる場合は、解雇することが出来ます。

つまり、ただ「勤務態度が悪い」というだけでは認められず、

  • 解雇の理由は、社会一般的な常識として合理的か
  • 適切な指導や配置換えなど手を尽くしたか
  • 「就業規則等」に具体的な記載があること

このすべてが必要です。

 

Q:ハラスメント(社員が部下にセクハラやパワハラを行っている)場合、どのような対応をすればいいですか?

A:まずは、事実関係の「迅速」で「正確」な確認が必要です。

会社がそれを放置すればするほど、被害者の人の信用を失くし、会社の方が(その期間分の)損害賠償を求められたケースもありました。

  • 一方的な話だけではなく、被害者・加害者の双方によるヒアリングを行うことがとても大切です。(人によって感じ方が違うからです。)

感情的になりやすい所ですが、会社としては、あくまで第三者目線で「本人の感じ方・受け取り方ではなく、客観的で具体的な内容」を確認することです。(いつ、どこで、誰が、どのような経緯で、何をしたか、第三者の聴取、メール、LINE、写真、日記など)

  • 事案の内容や状況に応じた適切な措置の実施(配置換えや懲戒処分などを行う)

※近年、パワハラ事例が増大していることから、中小企業でも、パワハラ防止策をとることが義務づけられました。(パワハラ防止法)

 

Q:無断欠勤・正当な理由のない遅刻・早退を繰り返す場合は、解雇することはできますか?

A:雇用契約を交わした以上は、社員は労務を提供する義務を負います。

したがって、この場合は解雇や懲戒処分の理由としては有効です。

ただし、基本的には一発解雇は許されません。

上記でも説明した通り、例えば、「指導として注意を繰り返す→懲戒処分→解雇」と段階を踏むことが前提です。

 

Q:社員が業務中に社用車で事故を起こした場合、損害賠償を請求できますか?

A:事故によって発生した修理費用などについては、社員に請求できる場合が多いです。

ただし、業務中の出来事であることから、全額ではなく、一定額に限定されるなど、大部分が会社の負担とされます。

(注):給料から損害賠償の費用を徴収することは出来ません。

基本的には、給料は「全額払い」の原則がありますので、法律で決められているもの(税金や社会保険料、労使協定によりあらかじめ定められたものなど)以外は徴収できないことになっています。

 

Q:社員が顧客情報や取引先情報、機密情報を社外に漏洩している場合、どのように対応すればいいですか?

A:まずは、自宅待機を命ずるなどしてさらなる漏洩を防止しましょう。

次に、パソコンや携帯電話、アクセスログなどを調査して、資料を収集し、関係者の聴取を行う。調査の結果を踏まえて、懲戒処分、損害賠償請求などを検討します。

入社時だけではなく、退職後にも「秘密保持の義務」を負わせるためには、「就業規則や誓約書」などによる記載が必要です。

 

Q:職場外で刑事事件(飲酒運転、痴漢など)を起こした場合は、どのように対応すればいいですか?

A:職場外で起こったことは、基本的には業務とは直接関係のないことです。

ですが、会社が「社会的な評価を維持」することは、会社の存立、事業の運営にとっては不可欠ですよね。

会社の社会的評価に「重大な悪影響」を与えるような社員の行為については、それが職務遂行と直接関係のない私生活上で行われたものであっても、規制の対象になりえます。

(例えば、その行為の内容、会社の事業種類、規模、経営方針、その社員の会社における地位、職種などを考慮して判断されます)

 

Q:退職した社員から未払い残業代を請求されました。

A:まずは落ち着いて、次のことを確認します。

  • 労働時間、給与額、手当などに関する契約について(雇用契約書、就業規則など)
  • 時間外労働の実態(タイムカード、日報、パソコンの履歴など)
  • 休憩時間の実態(昼食、手待時間、たばこ休憩など)
  • 時間管理の実態(休暇の手続き、遅刻早退の有り無しなど)

調べた結果、実は残業代を支払う必要がない場合もあります。

適切な管理が出来ていなかっただけで、数百万円~一千万円程の未払金を請求されることもあります。いずれにしても、割増賃金の部分は、あらかじめ基本給や他の手当とは明確に区別できるようにしておきましょう。

 

Q:懲戒解雇されたにもかかわらず、退職金を請求されました。

A:あまり知られていないのですが、「退職金規程」に「懲戒処分により解雇されたときは、原則として退職金を支給しない」と定めがある場合であっても、退職金は「賃金の後払い」

としての性格を持つため、基本的にはそれだけで退職金の不支給・減額は出来ません。

(退職金規程には一応、定めておく必要はありますが)

具体的には、「これまでの勤務期間の功労を帳消しにしてしまうほどの著しく信義に反する行為」でない限り認めないという裁判例もあります。

 

                                                                      

いかがでしたでしょうか?

社員との特に重要な対話の場では、その時の内容を書面で記しておくことが、認識のズレを防ぐポイントです。

あとは、具体的なルールのある「就業規則」をあらかじめ定めておくだけで、トラブルは未然に防ぐことができます。

法律では、10人以上の社員がいる事業所は作成と届出義務がありますが、10人未満でも明確なルールがあるだけで、人事・労務管理がかなりスムーズになります。

 

 

 

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